《おまけSSS〜ライバル〜》


時々、シオンは《スペード》の授業に参加させてもらっている。理由は身体が鈍るのがイヤだから。それと、ヒュークリッドと剣を交えるのが楽しいからだ。
「ヒューってさ、いつも5、6分の力でしかやらねぇよな」
「そうか?」
「まぁ、本気出されたら周りのヤツらは引きそうだけど…」
ヒュークリッドはどうやって強くなったのか、学園に入ってからも成長はしているだろうが、その基本は既に入学時から完成していた。
「…だが、お前とやる時は8分の力でやっているぞ」
「――マジで?」
「お前相手に本気にならないのはそれなりの理由もある」
ヒュークリッドは少し口篭もりながら洩らした。
「お前に私の太刀筋を全て見せれば、お前はそれを全て盗んでしまうからな」
「御名答!」
「だから本気で相手はしない。――まぁ、全てを見せない限りは私の方が上だという事だな」
「…言うねぇ、お前も。じゃあ、お前の本気はどんな時に見せるんだ?」
「私の剣は主の為だけにある。私が本気にならざるを得ない時は主に刃を向けられた時だけだ。見たら最期、間もなく死が訪れるがな…」
ヒュークリッドは綺麗な顔で微笑んだ。
「怖いなァ…お前」

もし、彼の主が居なければ、俺は戦場に彼を誘うだろう。
自分の背中を預けられる存在、そう認めているから。
守るべきもののある彼と、何も持たない俺とでは、強さの質が違うというのは理解してる。
決して相容れない価値観。
だから、背中合わせで居られるというのに――。

「悔しいけど、お前の事認めてるんだぜ…」

BY 氷高颯矢